なので即刻回収し、今後一切製造も販売も行うな、と言いたいところですが。
今回はちょっとつらつらと書いてみようかと思います。
まずは、こちらを読んでみて下さい。
まったくもって仰るとおり!と思わず手を叩いてしまいました。
DS脳トレに異論続出ー1『どんぐりころころ ~しまりすの日々の暮し~』
(※リンク切のためinternet archive)
こちらでは週刊朝日の記事を参照されていますが、確か別の雑誌でもあったような気がします。出張中に飛行機で読もうと買った雑誌で読んだなあ。何の雑誌かは忘れましたが。
さて。何が問題なのかというと、DSで「学習」だの「教育」だのを謳うことがおかしい、と言いたいわけです。
『どんぐりころころ』さんとちょっと違うのは、私は携帯ゲーム機自体は別にいいと思うし、それを電車の中で子どもたちが使っていたりということにそれほど抵抗はありません。
確かに「たまごっち」で死を簡単に捉えてしまったりという弊害がなかったとは言えないし、携帯に限らずゲーム機を持っていたり持っていなかったりということが子どものコミュニティの中でステイタスになったり、或いはいじめや仲間はずれの原因になってしまったりということは問題でしょう。
ただ、それはゲーム機に限らない。
例えば特定のテレビ番組を見たか見なかったか、ということとそれで、どういった違いがあるんでしょう。さほど違いはないような気がします。
単に仲間内の話題についてこられるかどうか、ということであるのならばそれは子どもたちのコミュニティ内、もしくは学校の先生が解決すべき問題であって、その原因をゲーム機に求めてしまうのはさすがに論理の飛躍がすぎるのではないかと思います。
そういうわけでもう一度結論を繰り返しておきます。
『DSは「教育」や「脳科学」をうたい文句にするな』
インストラクショナル・デザインという言葉があります。
これは、e-learningの世界で最近特に使われるようになった言葉ですが、簡単に(誤解を招く恐れを敢えて無視して強引に)言ってしまえば、『出題する問題の質ではなく、何を、どう学べば効率がいいかを考え、どう見せて、どう答えさせるかのツールを、どうすれば使いやすく継続しやすいかということまで考えてインターフェイスや学習の流れ、ツール類をデザインすること』です。
日本のe-learningはそこを無視して、未だに「コンテンツの質」に注力しているものが多く、とてもじゃないけれどこんなものは実際の現場では使えない、というものばかりです。
よく見かけるのが、
画面上に出てくる問題に答えていくもの
画面の向こうに先生がいて質問に答えてくれるもの
学習の進捗がリアルタイムで表示できるもの
などですが、どれもこれも、インターフェイスが先生にとって使いやすいものだったり、プログラマが自己満足で作ったものだったり。
とてもじゃないけれど、子どもたちの気を引いて、これで学習したい、と思わせるようなものではありません。
ならば、その点でDSは成功しているのではないか、と思われるかも知れませんが、確かにその点だけをとればその通りでしょう。
が、それだけです。
DSはインストラクショナル・デザインにのっとったものでも、それを正しく利用しているものでもありません。DSが成功しているのはあくまでも「ゲーム機に興味を持たせる」ことだけです。
例証しましょう。
とある塾・予備校・家庭教師(特定できないように範囲を広げて書いておきます)で個人的に聞いたデータです。ネット上で詳細を明かすことなんて恐ろしくてできませんし、迷惑もかかるのでしません。ですからこれが本当に正しいデータかどうかなんてのは保証できないのは当たり前です。
でも、そんなもんですよね、データなんて。というわけでその辺は気にしないでいきましょう。
DSを導入しました。それほどお金に余裕があるわけじゃないので、10台だけ。英語の学習ソフトをくっつけて貸し出し、夏期の間、DSで英単語を学習した中学生と、これまで通り単語帳を見ながらとにかくひたすら単語と訳を書かせた中学生の2つのグループを作りました。
どちらも10人、覚えるよう指示した単語の量は同じ、ただ単語の種類はさすがにDSのソフトが単語集に合致しているわけではないので異なります。
夏休みの間学習させ、結果を9月の中旬に行った『単語テスト』で比較しました。1単語1点×100問の100点満点のテストです。
結果は、
A)DSを用いた生徒群=最高100点、平均57点
B)書き取りの生徒群=最高100点、平均72点
もちろん、これらを行う前の生徒の学力が完全に平均化されていたわけではありませんから、単純比較はできませんが。
それにしたって幾らなんでも差が出すぎだろう、と思ったわけです。
もちろんこの話をしてくれた方もそう思ったらしく、実際にどうだったか確認をしてみたようですが……。
当たり前のことでした(笑)。
まず第一に、書いて覚えるものを、幾ら画面にタッチペンで書けるとは言ってもそりゃ無理だろう、と。
紙に鉛筆(シャープペン)で書く感触も一緒になって覚えこんでいるから、タッチペンでは実際のテストで「体全体で覚えた」単語が出てくるはずもない、ということでした。
これについては本当なのかどうか分かりかねます。何となく、なるほどそんなものなのかも知れない、とは思いましたが。
そして、次に。
DSを借りた生徒たちは、もちろんそのソフトでは学習進捗を楽しく、視覚的に見ることができるので最初のうちは割と興味を示して学習していたそうです。
が、そこは子どものこと。
次第に単なるノルマにしか思えなくなり、そうなるとDSそのものが持つ「ゲーム機」という特性を活かしたくなる。すると、自分でもDSを持っている生徒は自分のソフトで遊んでばかり。持っていない生徒も友達から借りたりして、結局はゲーム機として使ってばかりで、最低限、仕方なくやらなければならない単語だけを嫌々やるという状態に。
もう一方のグループはと言えば、最初っから嫌々やっているのでモチベーションの上下はさほどなかったのではないか、と。
それならば頷けます。
DSというゲーム機を手にしているがために、英単語を覚えようとしても他のソフトがちらついてしまう子どもと、最初から嫌々やっているけれど他に意識が向きようのない、紙に書き続ける子どもと。
どっちが効率いいかなんて言うまでもないでしょう。
だからDSは「ゲーム機に興味を持たせる」ことには成功しているわけです。
けれどもそれはインストラクショナル・デザインではないし、学習ソフトとして成功しているわけでもない。
むしろ、ここに挙げたデータだけを見れば、明らかに学習の妨げになっています。
もうひとつ。
京都府の中学校でDSの英単語ソフトを導入して実験していましたね。
あれ、結果が出て、結局DSをやったことで多少学力というか語彙量が増加したという感じでしたが、あんなのはまるで信用できません。
なぜならば、私がここに挙げた例のように、DSを使わなかった生徒との比較がされていません。そもそも参照すべきデータがないのに、語彙力がアップした、なんてどうして言えるんでしょう。
また、中学3年生にやらせれば学力が上がるのは当たり前です。
受験を意識している子どもたちですから、DSを持たせなくたって勉強くらいするでしょう。
つまり、DSを用いたおかげで上がった、という根拠にはまったくならないわけです。
携帯ゲーム機を使って勉強させるのであれば、任天堂もしくはDSのソフトを制作している会社は、もっときちんとe-learningやインストラクショナル・デザインなどについて勉強してからにするべきです。
子どもたちに勉強させたければ、まず自分たちが勉強しなさい。
真っ先にすべきことは、DSで効果が出るわけがないのだから「これを使えば学力がアップする」などという誇大広告どころかあからさまに嘘をつくのは止めて頂きたいものですね。
大人向けには確かにいいと思います。
それは「脳力をあげる」という意味ではなく「通勤時間の暇つぶしに」という意味で。
DSの脳トレが効果を持たないことは先に挙げたサイトで確認してください。
ゲーム機はゲーム機らしく、遊びに集中していればいい。
下手に教育だ脳力だと言い出すからおかしくなるんじゃないでしょうか。
そういう点では、遊びに注力しているPSPの方がその姿勢によほど好感を覚えますね。
……まあ、そもそもPSPとDSでは機体の能力に差がありすぎて比較にもならないんですけども。