『不思議図書館』高尾滋

2010年2月7日

books/comics diary

白泉社文庫から出ている、不思議図書館

漫画はもちろん大量にありますが、どちらかと言えば民俗学や古典文学、宮城谷昌光の中国史小説などの方を頻繁に読んでいることと、感想を持つに至るような内容にあまり出会えなかったために、漫画のレビューは書いてませんでしたね。
だいたいが好きな漫画家が萩尾望都、清原なつの、坂田靖子、魔夜峰央、今市子、遠藤淑子、だったりするので、そもそも感想を書くこと自体が(特に前4名)畏れ多いというか。

全体の印象

さて、この「高尾滋」という漫画家ですが、まったく知りませんでした。ググってみたら「花とゆめ」で活躍中らしい。

真っ先に思い浮かぶのは、「パタリロ!」とか「アラベスク」、「ガラスの仮面」、「超少女明日香」、「笑う大天使」などなわけですから、最初にそれを知っていたら凄く期待して買ったかも。
実際はたまたま本屋で平積みされてて絵柄が悪くなかったので買ってみた、という程度なんですが。んー、まあ結果的にはそれが良かったのかな。

全体としては、まあまあかなという感じ。
イメージというか雰囲気で読ませる作品ですね。感動はできないしじっくり読むというものでもない。美少年(少女)や美青年は出てくるけど、成熟した大人は出てこない。
内容や絵柄から、目的は見えてくるのでそれはそれでいいと思うんですが、厚みがないというのが正直な感想ですかね。

掲載作品の個別レビュー

全力ってほどではないですが、多少のネタばれを含みますからご注意を。

「不思議図書館」

デビュー作。学校や図書館と言う「何が起きても不思議ではない場所」作りには成功しています。高子を本の世界へ誘う少年がどう見ても渚カヲルでしたがw

「雪語り春待ち」

少年が出会った女性は、昔語りの悲恋のヒロインだった。
よくあるタイプ。ネタそのものが使い古されすぎていて、印象にもまったく残りませんでした。後味が悪くないのが救い。

「モナリザ」

出だしが完璧に「フミコの告白」w
もちろん、まったく関係はないんでしょうけど。

食糧を拾った悪魔の兄と、拾われた食糧な妹。……せっかくそういう認識を、少なくとも兄だけは持っているんだから、たった1コマで終わらせるんじゃなくてこっちを話のメインにした方が面白かったような気がする。

妹が好きな相手、安永君が出来すぎていて人間ぽさがない。悪魔な兄の方が人間くさい。

「素顔の風景」

こちらも印象に残らなかったなあ。
小話を続けてひとつの流れの中にまとめたものですが、いかんせんページ数が少なすぎて。

「スロップマンションにお帰り」

話の構成の仕方が今市子に似ています。難点は、鶴の母親を含め主人公以外のキャラ全員に共通して、心情が表現しきれていないってこと。つまり主人公の気持ちしかわからない。

「あじさいの庭」

良かったです。祖父の作った紙人形である友、母親が作ってくれた人形のゼランディーヌ、主人公の珠枝、それぞれをうまく描けていますね。

「彼方からの手紙」

交通事故で死んだ兄から届いた手紙、そこにあった約束の動物園に行った妹は、兄の同居人と会って兄の想いを知って行く。
これまたありきたりですが、かなりよくまとまっていて、掲載作品の中では最高の部類じゃないでしょうか。

「散らない花」

一言で言えば、マリみて「白き花びら」。
その印象があったせいで面白いと思いながら読んだんだけど、読後、落ち着いて考えてみたら「こいつらホルモンバランスが崩れてるんじゃねぇか?」とw

音楽講師を追いかけて入寮までして転校してきた愛想なしで友人を作らない勇気が、同室の息吹との触れ合いで少しずつ変わって行く話。
その息吹が実は、昔あった悲恋の……って、あれ?これって「雪語り春待ち」と同じじゃね?

まとめ

そんなわけで、絵はきれいだしイメージはいいし、ページ数制限の中できれいにまとめてはいますが、内容としては、どこかで見たなあという印象のものが多い。
ただ、例え制約されたページ数だったとしても、致命的に思えるのは人物たちの背景や心情があまりにも薄すぎるということ。
彼ら(彼女ら)が、どうしてこうなのか、どうしてそう思うのか、がまるで表現されていないため、紙面の上っ面を眺めて終わってしまいます。漫画やアニメに、難解で複雑な設定や世界観を求めていませんが、さすがに登場人物の心情を想起できる描写くらいはして欲しいなあ、と。

多少感じられたのは「あじさいの庭」「彼方からの手紙」。
なのでこの2本はとても良かった。

誰かに本のお勧めを求められて、「軽く読むのなら」ということで紹介できそうな感じですね。多分、買って損することはないと思いますよ。


ふむ。
本や漫画のレビューってのもいいかも知れませんね。
ネタがない時なんかに最適かも。
ということでカテゴリ追加。ああ……少ないカテゴリで絞って投稿してこうと思ってたのに。