原作読んでいて、アニメ化して欲しいようなして欲しくないような、と思っていたらアニメ化されて、大丈夫かな、改悪されてないかな、絵が大幅にアニメ適正化されていたら嫌だな、とか思っていたら想像を遥かに超える出来で大変嬉しかったアニメ。
なろう系のクソみたいなアニメ数百本作るくらいなら、こういうの一本に全力投球した方が絶対いいと思うんだけど、アニメ業界も色々あって大変なんだろうね。
各話紹介
ダンジョンの中に、ひと
声にさほど先入観を持っていなかったからか、まったく違和感なしに見ることができた。クレイやベルだけでなく、1話から声が入ったクレイの父親やミノタウロスなども。
何より安心したのはキャラデザも背景も含め絵が忠実に原作再現されていたこと。
無理なく世界観の導入、クレイがダンジョンで働き始めるきっかけをきれいに描き切れているので安心して続きを見られます。
ダンジョンの仕事始め
ダンジョン内の案内に絡めて、なろう系では絶対に説明されない(というより、なろう系作家のレベルでは書くことができないと言う方が正確か)ダンジョン運営の不思議が、説明っぽくなくちゃんと描かれている。
イチ推しキャラのランガド(なぜおっさんを推すのか)もちびゴーレムたちと共に出演。クレイに憧れるちびゴーレムの描写もいいですね。
片付けられる人(クレイ)と片付けられない人(ベル)の理論がわかりやすい。
氷狼の牙
盾は体の一部扱いなのに剣は違う謎理論。
もちろん原作通りではあるけど、まあやっぱり割と殺伐とした世界だよね、実際は。でも殺伐とした感じがないのは絵柄のおかげか。
採用時の回想で10階層のダンジョンなのに7階担当(しかも「徘徊担当」とかw)と言われて凹むクライッツェの想いは、現代社会のサラリーマンや学生でもあることだよなあ。
そういう点も、割と現実的で殺伐。
シーフギルドとタンジョン
シーフ(thief)が元は古英語のþēofからだと考えれば、ゲームやなろう系の「盗賊」の方が正しいんだろうけど、本作では盗人という意味を持たない。
いや待てよ、裏でダンジョンと連携してると考えればまったく無関係という感じでもないか……?
仕事仲間、家族
ドラゴンのレイルモンドさんの声、渋いっすね。
それにさすが10階担当、強い。やはり質量は正義。
後半でランガドが触れているようにベルはそれ以上のトンでもキャラなんだろうけど、コンピュータを使っているかのような効率的なGUI使ったダンジョン運営をしていたり、友達を欲しがったり、強さを必要以上に押し出さないのはいいですね。
そしてランガドはツンデレ。
探索と料理
初っ端から常識的な生活からかけ離れている二人。
岩塩を削らずに塊ごと使うのがおかしいと思わない二人こそおかしい。まあ、料理できないってのは定番ではあるけど、感心したのは料理の絵そのものについて。
かの有名なキャベツみたいなのは論外として、だからと言って写実的であれば良いという訳ではなく、全体の絵柄に合わせて適度に丁寧に描かれていればそれで良い。その点でもこのアニメは非常に素晴らしい。
ダンジョンの面接
ダンジョンのモンスターって面接で雇用するものなんだなあ……。
ていうか、最深層で面接するのか。
気軽に異世界から面接者を呼び出すベルがいたら、異世界召喚もののアニメとか世界観が崩壊しそう。
ただほんわかしているだけでなく、ダンジョンの管理者として毅然とした態度を採れるベルを描くあたり、やっぱりプロは違うなと感じる。その結果が、投げ飛ばして腕を千切るベル……。
うん、まあダンジョンの管理人だし、原作でも明確にされていないけどやっぱりベルは人間ではないんだろうしね。模様替えと雇用
なろう系がいつまで経ってもなろう系であって、プロ作家と言われない(自称はしているんだろうけど)のはご都合主義をご都合主義のままでしか書けないから。あるいは説明しようとすると設定集書いたり説明だらけになったり。
そこらがプロとの大きな違いだと思う、と思い知らされる回。
国王とダンジョンマスター
この回を見ると、世間一般と探索者やダンジョンとの感覚の違いというか強さの基準というか、そのあたりがわかりやすい。
その観点からも好きな回なんだけど、何よりもぶかぶかな先代の服を着ているベルや、メイド服のクレイという珍しい格好の二人が見られるだけでも良き。
それにしてもクレイさん、あなた完全なる探索バカかと思えば、意外と恥じらう気持ちも持っていたんですね。いや、恥じらっている訳ではない……のか?
ベルの口の動きが妙に細かかったり、その際の声優の演技だったり、ここは演出も演技も上手いな、と感心した。
風切りの娘
ビンキーのこの特徴的な声は……ってまあ、最初に声だけ出てきた時にピンとはきていましたが。
それにしても二つ名が「風切り」とはかっこいい。
その二つ名に似合う渋いおっさん、ではなくいい加減な親父って感じですけど。
とは言え今回の目玉はタイトルにある父のことではなく。
な、ソ連的ゴブリン徴兵法を行うベルに持って行かれてしまいました。
守らぬ者たち
一般的にファンタジーで「冒険者」というと抱くイメージを具現化したのが今回の話。
運営側の日常を見ていると忘れがちだけど、ダンジョンはダンジョン。いかにダンジョン運営内がほんわか(?)した日常を送っていても、モンスターと探索者の殺し合いは行われているわけで、そんなところに好きで潜るやつなんぞこんなもん、という3人組。
最後尾は被害者。
そしてやっぱり情け容赦のないダンジョンマスター。
このアニメ、ほんとダンジョン運営に関する説明部分と、それ以外のイベント部分での落差がすごいわ。
ダンジョンの中のひと
最終話にてタイトル回収。第1話の『ダンジョンの中「に」ひと』との対比も気が利いている。
パンを焼くことを覚えたクレイ。いや、それくらい最初からやれよという話ではあるんだけど。そんな訳で今回はダンジョンにおける「食」のお話。
と言っても、ダンジョンの住人は異世界というか魔界のモンスターたちなわけで、食の嗜好も色々。なのでファンタジーらしい食材専用の広大なエリアが用意されている。
ほんと、回を追うごとにアントムルグのダンジョンは待遇良いよなあ、と思ってしまう。
にしても、この図体と面構えで這いつくばって草食ってる姿がシュール。クレイは何だかんだ好奇心旺盛だしチャレンジ精神も半端ないな。だから単独で9階層に届くほどの探索者になれたんだろうけど。
種族特性なんだから、人間であるクレイは草食うなと突っ込むベルだったが、
1クールなのが勿体ないアニメだった。
作画も声も演出も原作再現も、何もかも素晴らしい。
ただ、ファンタジー・ダンジョン・探索などの単語のイメージから受ける「冒険活劇」とか「俺TUEEEE」とか「スキル」とか「アビリティ(笑)」とか「レベル」とか「職業」とか、そういった最近のなろう系アニメ要素は当然ながら皆無ですので、クソアニメ愛好家には物足りないかも。
2期を切実に望む傑作でした。