私の保健室へおいで… (ハヤカワ文庫JA)
収録されている「Children Hour」('sが抜けているのは作者が枠外で反省しているので、タイトルとしては間違ったまま記載する)を、高校生の時に読んだのが最初だった。
当時、生徒会に所属しており放課後は毎日生徒会室にいたのだが、多分、前生徒会会計の先輩女子か誰かが常に少女漫画雑誌が持ち込んでいて、文化祭やら予餞会やらで仕事がない時には暇で仕方なかったからよくそれらを読んでいた。
テレビや漫画が制限されていた子供時代だったので、小学生の時点で「嵐が丘」なんぞを読んでいた身には割と「はじめての漫画」レベルだったこともあって衝撃的だった。
……しかもレズ。
女性教師が教え子と駆け落ち(正確には違うけど)して、海辺の別荘で女装させた生徒と2週間を過ごす。時間割通りに勉強して、ダンスして、その理由も知らせないままに最後の日曜日を迎えて教師は学校を辞めて留学、生徒は日常に戻る。
海中結婚式場のウォーターパレスや別荘、女装、ダンスなどの非日常に囲まれた2人と、彼らがいなくなった学校に残された日常がうまいバランスで描かれている。
少女漫画というジャンルでありながらも、男性ファンが多いのもこういったSF的な要素や表現、それに当時のSFに近い少女漫画に特徴的な「一般的普遍的な幸福ではなく、作中における幸不幸の明確な基準をベースにした締め方」があるからじゃないかな、と思う。
最後のコマに描かれた、教え子からの結婚を報告する手紙を読む教師の部屋に貼られた、「ANOTHER COUNTRY〜一生男は愛さない〜」の学園祭ポスターに、本気で描いているんだか何だかわからない感覚にさせられる。
今思うと最も印象に残ったのはその最後のコマなんだろうなあ、と思うけれども、この当たりの登場人物も作者も、どこまでが本気でどこまでが上の空なのかよくわからない雰囲気が、シナリオのというよりは雰囲気の起伏になってあっさりとした線の細い絵柄にも合っているのだろう。
読者の創造するごくごく普通なハッピーエンドの期待を裏切る「WITHOUT YOU」「あざやかな瞬間」や、後々の『花図鑑』シリーズに根底でつながっていそうな「空の色 水の青」など、清原なつの作品がどんなものなのかを知る、清原なつの入門、として最適なのではないか、と思われる一冊。
いきなり花図鑑やアレックスタイムトラベルでもいいんだけど、短編かつ様々な「らしさ」が詰め込まれている本書から始めるのがお勧め。